空き家を探す

2023年07月19日
ぽんぽこ仮面

絶景にまみれ、そして日常へ。


7月の3連休の中日。30度を超える真夏日。
 
強く照り付ける日差しの中、時折優しく吹く風が涼しさを運んでくれる。空は真っ青で、山々の緑と相まって、良く映える。梅雨明けも近いだろうか。
 

どこかに出かけたくなる日だ。車へ乗り込み、エンジンをかけ、目的地も決めずに走り出してみる。日差しが強く、車のクーラーも追いつかない。窓を開けると、心地の良い風と共に、木々が揺れる音が飛び込んでくる。ラジオの音を切り、風と木々の合唱に耳を傾け、車を進める。
 
気が付いたら大東の街まで出ていた。
さて、どこへ行こうか。
こんな気持ちの良い晴れた日には、心洗われるような絶景が見たい。
ふと、思い出した。
 
山王寺の棚田だ。
 
雲南市大東町の北東部標高300mの山腹に位置し、『日本の棚田百選』にも指定されている。棚田数約200枚にものぼるというのだから、驚きだ。最早、想像もつかない。本来は5月の田植えのシーズンに見に行きたいと思っていたが、なかなかタイミングも得られなかった。今日しかないだろう。
 
海潮地区を抜け、松江市忌部に向かう道路。毎日の通勤路だ。いつもは何事もなく通過する道を左折し、県道267号線に入る。細く蛇行する山道では、生い茂る木々に日の光さえも遮られ、進むごとに不安が増してくる。本当にこんなところにあるのだろうかと。それでもゆっくりゆっくり進むと、棚田展望台の表示が目に飛び込んでくる。
 
車を止め、エンジンを切り、山王寺の棚田といよいよ対面。とてつもない景色に目を奪われ、息をのんだ。時間が止まったような感覚に襲われる。
 

田んぼに植えられた稲苗も元気に育ち、緑の葉が風に揺られる。棚田の奥には、深い緑に染まった山々が連なり、稲苗との鮮やかなグラデーションと、真っ青な空とのコントラストが私の心をも奪い、道をゆっくりと行く軽トラにノスタルジーさえ感じる。

ゆっくりゆっくりと時間は流れ、日々慌ただしく生きていることに馬鹿馬鹿しいとさえ思えてくる。
 

私は何とも言えぬ思いに駆られ、山王寺の棚田をあとにし、松江へと向かった。宍道湖の夕日を見るため。強烈なオレンジの日の光が、宍道湖の先に沈んでゆく。オレンジが沈み切ったころ、同じ方向を眺めていた多くの人たちが、一斉に帰路に就く波ができた。
 

島根県東部の絶景にまみれた日。
気が付けば、帰路に就く人の流れに私自身も身を任せている。
こうして、また日常に戻っていくのだろうか。




【ライター紹介】
ぽんぽこ仮面。京都府与謝野町出身、9年間東京で過ごした後に雲南市へ。
お風呂すき。サウナすき。キャンプすき。
毎日わくわくした大人でいたい教育業界の人。