仕方ない。たまには、雲南市だけではなく、お隣松江市での話でもしよう。何がはなっから仕方ないのかは我輩にもわからない。
松江市はというと、そう、島根県の県庁所在地である。実のところ、我輩、ぽんぽこ仮面は松江市のとある飲み屋街でひっそりと佇む、アヤチイ雑居ビルを占拠している団体に属している。平日は毎日1時間かけて、通っているわけである。わざわざ雲南市というドが付くほどの田舎に移住して、わざわざ同質化著しい地方都市に毎日通うのか、清々しいほどに馬鹿馬鹿しいことをしていると皆は思うだろう。私もそう思う。しかし、我輩が島根県という行ったこともなかったこの地に移住を決めたのは、この団体に潜入したかったからであって、偉そうなことは言えまい。事務所はこともあろうに、我輩には似つかわしくないオシャレさだ。
仕方ない。話を進めよう。いつもの昼休みの話である。
11時26分。ThinkPadちゃんの画面右下をじろじろと見る。我輩はソワソワし出す。どれくらいソワソワしているかというと、最早立ち上がり歌い踊っている。それくらいにはソワソワしており、その風景が日常と化し、事務所内の同僚はもう何も言わない。景色である。景色と化したぽんぽこ仮面。なんと絶景であろうか。
11時30分。ThinkPadちゃんをパタンと閉じ。1,000円札を握りしめ、事務所の扉を開ける。「ちょっくら出てきます」と一声かけ、車に乗り込む。エンジンをかけるとき、妙な高揚感に駆られる。今日もこの時間が来たと。東本町2丁目を駆け抜け、県庁や松江市役所を横切るときの優越感と来たらない。左手に宍道湖を見ながら、5分ほど車を走らせる。
11時40分。到着。千鳥町はCOCO MATSUEの立体駐車場に乗り付ける。車を降り、エレベーターで3階から1階へ降りる。そうすれば、ご対面だ。我輩の松江市での日常。昼休みの「ちどり湯」である。そう、我輩は昼休みに風呂へ行く。飯屋ではない。飯屋なんかに行っている場合ではない。温泉である。ここは、松江しんじ湖温泉にある公衆浴場。430円で温泉に入れるステキ施設なのだ。
11時45分。身体を洗い、入浴。「ぶあああぁ~♨♨♨」と声が漏れる。この時間にいる爺さんたちの顔も見知ってきた。それぞれにしわくちゃの良い顔で湯に自身を委ねる。この時間は現代が生み出した闇「ネット」から解放される。便利な一方、人気者の我輩はスマートフォンを持っているとSlackの通知が鳴りやまない。うんざりだ。大変うんざりなのだ。たかだか20分だけ、それだけでもネットから遮断される時間が、我輩の精神をこの世に連れ戻してくれるわけだ。
12:10。さっぱりすっきり。木次牛乳をぐびっといく。ここで雲南市の名物が登場。これは欠かせんのだ。そして、昼飯代わりにセブンティーンアイスクリームを頬張る。風呂代と合わせて、750円。普通に飯を食っているより、安くて贅沢。格別。
12:20。事務所へ向けて車に乗り込む。溜まっているSlackの通知に嫌になる。窓を全開で走る。右手に見える宍道湖の景色と生あたたかい風が我輩を生ぬるく包み込む。案外心地よい。
12:25。「戻りました」と一言かける。「おかえり」と返ってくる。最早みんな、我輩が昼休みに風呂に行くことはわかっている。最初は「ぶえええ?!昼休みに温泉?!」と驚いてくれたもの。変な奴認定してもらえているようで、嬉しくてニヤニヤした。もうあの時には戻れない。私が昼一の業務時間は石鹸の香りを漂わせ、火照った赤い顔をしているのも、日常の景色となった。これまた絶景だ。
【ライター紹介】
ぽんぽこ仮面。京都府与謝野町出身、9年間東京で過ごした後に雲南市へ。
お風呂すき。サウナすき。キャンプすき。
毎日わくわくした大人でいたい教育業界の人。