多々納正義さん、由加さんご夫妻
父親の実家が出雲だったので、小さな頃、何度か島根に来たことがありました。
親戚もいるので、学生時代はそのつてを頼って自転車旅行に来たこともあるんです。 移住する前は滋賀県に暮らし、半導体部品メーカーで技術系の仕事をしていたのですが、 「自分の人生、このままでいいのかな」という気持ちがあり、思い切って移住を 決意しました。親が転勤族だったこともあり、「ふるさと」がほしいという思いが どこかにあったのかもしれません。いろいろな土地を見て回りましたが、 やはりなじみのある土地の方が落ち着くんじゃないかと、島根への移住を決意しました。
雲南市に決めたのは、働く場所があったということが大きいですね。       
驚きましたけど、決めちゃったならしょうがないかな、という感じです(笑)。私は関西の出身なのですが、 引っ越した時に雪が降っていて、関西よりも西なのに雪が降るんだということにびっくりしました。
1年目の冬は運転するのが怖くて、仕事にも歩いて通っていましたね。最初は借家に暮らしていたのですが、 大家さんがとてもいい方で、いろいろなことをやさしく教えてくださったので、不安はあまりありませんでした。     
実は移住を親に相談したら反対されてしまったんですが、その大きな理由が「安定した仕事があるのか」ということだったんです。
そこで、役場なら賛成してもらえるだろうと思い、年齢制限に引っ掛からなかった吉田村(現在雲南市吉田町)の役場を選びました。 試験に合格してから実際に勤務するまで1カ月しかなく、不安を感じる暇もありませんでしたが、住むところを決めたりするのにも、 周りの方々にたくさん協力していただきました。
吉田に来て6年が経った時に市町村合併があったのですが、それを機に役場を退職し、現在は農産物の加工・販売などの事業を行う 「吉田ふるさと村」に勤務しています。職場では通信販売と広報を担当していて、お客さまとのやり取りやホームページの管理などが 主な仕事です。プライベートでも、フェイスブックなどで情報発信をしています。     
以前暮らしていた土地もそんなに都会ではなかったですし、Iターンで役場職員になったことで、物珍しさも手伝ってか、 顔を覚えてもらうのも早く、比較的すぐに馴染むことができました。地域ならではの行事ごとや消防団などの付き合いは、 正直おっくうだと思うこともありますが、それをきっかけにして同世代の付き合いが深まるので、必要なことだと感じています。
田舎ではそうやってお互いが支えあって成り立っているんだと思うんです。     
写真左 取材が春先だったこともあり、雲南市吉田町の和菓子屋さんの桜餅をいただく。
写真中 家から見える風景。「よくぼーっと景色を見ています」とご主人。
ご近所さんから野菜のおすそ分けをいただくことも多い。
写真右 愛犬のぷたろう。もうおじいちゃん犬だが、とても元気。 
周りの方々にいろいろと教えていただきながら、楽しく過ごしています。お仕事も紹介していただきましたし、 例えば冠婚葬祭の風習など、住んでいる人ではないと分からないことも、皆さんていねいに教えてくださいます。
このあたりは今でも葬祭会館ではなく、自分の家でお葬式を出すんです。近所の皆さんが助け合い、 役割分担も自然とできているのがすごいと思いました。
子どもたちは小学生ですが、小規模校なので、得意・不得意関係なく全員がいろんな役割を担っています。
まさに“みんなが主役”ですね。低学年でも人前で話す機会がたくさんあって、自分が子どもの頃に比べると頼もしいですね。
現在、伝統芸能である神楽も習っているんですが、上手く地域に溶け込みながら、すくすく育っています。     
子どもが小さい頃は、病気の時などは、身近に頼る人がいないと心細いかもしれません。
私たちの場合は実家の両親が来てくれましたが、入院しなければならない時は遠方の病院になるので、 働いていると特に大変だと思います。どこに暮らしていても同じかもしれませんが、日頃から、地域や職場の方と 良い人間関係を築いて、理解してもらえるように努力することが大事ですね。     
都市部の暮らしとは違い、住民どうしのつながりが強いのが田舎の特徴だと思います。
自分の価値観とは違うこともたくさんあると思いますが、その土地に長く暮らしている人たちの文化を尊重し、 「巻かれてみる」ことも大切。そのうえで自分の思いも聞いてもらって、いい関係を築けるといいですね。
田舎の人は頭ごなしではなく、ゆるやかに、忍耐強く物事を教えてくれます。
そのゆるやかな流れに自分を任せられるような、楽天的な性格の人が向いているかもしれませんね。