渡辺正樹さん
地方への移住を考えたきっかけは、農業をやろうと思ったことです。元々出身が島根県大田市で、高校卒業後、広島県の大学に進学してからはずっと広島県に住んでいました。サラリーマンとして20年間ほど働いていましたが、朝から夜までひたすら仕事をしていて、本当にこのままでいいのかと考えることもあり、サラリーマンとして働くことにモチベーションが下がっていました。人間らしい暮らしができたら、と。
そんな時、友人の夫が東広島市にIターンし有機農業をやっているという話に興味を持ち、その方の農業の手伝いをすることにしました。実家も兼業農家だったので、農業は大変だというイメージがありましたが、東広島市で手伝いを初めて出会った農家さんはみんな楽しそうに農業をやっていて、その笑顔を見て農業をやりたいと思うようになりました。その後仕事を辞め、友人の夫のつてで東広島市で2年間農業研修を行いました。特に公的制度を活用せず、空いた時間で稼いだバイト代と今までの貯蓄を切り崩して生活していました。それほどの想いで農業をやろうと考えていました。
  農業研修当初は独立就農を目指していましたが、研修をしていくうちに独立の厳しさを感じました。僕の場合は1日中農業をやっていたいという想いもあったので、独立となると経理などの事務仕事も増えるので、向いていないとも思いました。方向転換をして、有機農業の雇用就農先を探すようになり、広島市で開催していた農業人フェアに参加しました。できれば地元の島根県で農業ができたら、と考えてはいましたが、それよりも自分がやりたい農業ができる場所で雇用してもらいたいと思っていたので、地域は絞らず考えていました。
そこで声をかけてくれたのが雲南市でした。有機農業を行う『木村有機農園』という法人があるので一度見てみないかと誘われ、市の制度を使い2回ほど体験をしました。その後、木村有機農園で雇用もしてもらえることになり、農業人フェアに参加してからトントン拍子で雲南市への移住が決まりました。有機農業で雇用をしてくれる法人は全国でも少ないので、これもご縁だと、このタイミングを逃してはいけないと思い、移住を決断しました。
  現在は、移住前に体験させてもらった木村有機農園で正規雇用されています。移住1年目はふるさと島根定住財団の産業体験を活用しました。決め手は、自分のやりたい農業ができる、研修で学んできたことが活かせるというのはもちろんですが、何よりも木村有機農園がある地域、雲南市吉田町民谷地区の景色に惹かれました。木村有機農園では、約20種類の無農薬の野菜、無農薬のそば、減農薬の水稲を生産しています。
  東広島市で空き家に住んでいましたが、庭の草刈りや広すぎる家の掃除など、維持管理が大変でした。借りている家なので、借りている自分がきちんと管理しないといけないというプレッシャーも感じましたね。その経験から、雲南市では公営住宅に決めました。個人の所有物ではないので、維持管理のわずらわしさやプレッシャーからは解放され、仕事に集中できます。単身で住むのであれば、空き家に住まない選択肢も考えるといいですね。
  僕が住んでいる吉田町は雲南市のはじっこで、人口も少ない地域ですが、そんな吉田町に住んでいても不便さを感じません。高速道路が通っているので、車があれば交通の便も悪いとは思いません。夜は本当に静かで、真っ暗だけど、そんな「何もない」があることに魅力を感じます。大田市出身ですが、住むまで雲南市のことは全く知りませんでした。イメージすら浮かばず。そんな状態で移住しても、雲南市は住みやすい場所だと思います。
雪に困るだろうとたくさんの人に言われましたが、移住してからはそこまで雪の影響を感じることがありませんでした。これから雪の恐ろしさを実感するかもしれませんが、ある程度は慣れてきました。
  衝撃的だったのは、同じ島根県出身にも関わらず、言葉が全くわからなかったことです。石見地方と出雲地方でこうも違うのか、と。農業をしている人たちは年配の方が多いので、特に方言が強く、わからないことが多いです。吉田町にはコンビニもなく、雲南市全体で見ても飲食店が少なく感じます。ただ、コンビニに頼らない生活、外食をしない生活というのも新鮮でおもしろいです。何よりも自炊するようになり、今では自分の弁当も作っています。
地元の人は雲南市がもっと便利になってほしいと思うかもしれませんが、移住者は少し不便なところや何もないところに惹かれているところもあるので、変わらないでほしいと思っている人も多いです。このように地元の人と移住者とのギャップを感じる瞬間はあります。
  移住をすることが特別すごいことではないと思っています。移住者は能力が高い人が多いみたいな見られ方をすることもありますが、そんなことは一切なく、自分が気持ちよく日常を過ごせる場所を考えることが移住をすることだと思います。移住のハードルは高いわけではないです。ただ、自分が気持ちよく過ごせる環境を探すことは大変です。焦らずゆっくり、暮らしていてストレスを感じない場所を探してほしいです。
移住をしたら地域貢献をしないといけないというプレッシャーもあるかもしれませんが、僕は自治会にでることや消防団に入ることよりも、地域の企業で一生懸命働くことが一番の地域貢献だと思います。地域とのつながりの濃さも大切ですが、地元企業で雇用され、一生懸命働き、売り上げに貢献し、さらなる雇用を生み出すことが自分にとっての地域貢献だと考えています。僕も、雲南市の若者や移住希望の若者に農業に興味を持ってもらうために、職業として農業を選択してもらうために、そのために日々汗を流しています。
僕も、人とのご縁やタイミングが、雲南市への移住につながりました。タイミングを逃さないことと、迷ったときには自分が気持ちいいと感じる選択をしてほしいです。
 

渡辺正樹さん
2018年3月に広島県からIターン
<2020年3月取材>